2022年10月アーカイブ

حرا

某アラビア語-日本語単語・語彙集に、「حرا」というⅠ形の動詞が載っており、今までに見たことがない動詞だったので、アラビア語を母国語とする人に確認しましたが、初めて見た動詞だとの回答でした。

頻出度合いが高いものから順にまとめているはずの単語・語彙集の中で、この語が取り上げられている理由が分かりません。

念のためGoogleアラビア語で検索してもほぼ出てこないので、一般的な語ではないように思われます。

本中級辞書での扱いをどうするべきか迷いましたが、収録の上、一般的には使われない「まれ」を付しておくことにしました。

なお、その動詞の形容詞である「حري」はよく使われます。


中級辞書Ver.6.36のアップロード

-アラビア語-日本語電子辞書データ更新報告-

辞書名:中級辞書Ver.6.36

登録語彙数:63,600

辞書の説明:(Ver.6.34から)新規に200語の追加、約50語の既登録語の訂正の実施。

特記事項:
特になし。

إملاءات

アメリカがサウジアラビアに対して原油の増産を要求してきたのに対し、OPECプラスは5日の閣僚級会合で日量200万バーレルの大幅減産を決定し、それに対しアメリカはサウジが減産を主導したとしてサウジとの関係を見直すなどという報道がある中、GCC諸国はサウジの立場の支持を表明するとの報道が出ています。

こういう報道の中で、「رفضت السعودية الإملاءات الأمريكية」という表現が何度となく出てきますが、この「إملاءات」(単数形は 「إملاء」)については、既存のアラビア語-日本語辞書で訳語が出てきていないように思われました。

この語の意味するところは、日本語では「指図」がぴったりするように思います。更に言えば、(上から目線の)指示とか(一方的な、理不尽な)命令などと訳してもいいように思われます。

このアメリカの増産要請をサウジやサウジを支援する中東諸国側は、アメリカの中間選挙等を踏まえた身勝手な「指図」と捉えているようです。

حرد

この動詞(形容詞は「حردان」)の訳として「不機嫌になる、ふくれる、すねる、ふてくされる」を登録していました。

最近、この動詞の意味をアラビア語を母国語とする人に照会する機会がありましたが、上記日本語訳とはやや異なる意味合いのようですので、それを踏まえ修正しておきたいと思います。

例えば「غضب」が一時的に「怒る」、「立腹する」という意味であるのに対し、「حرد」は、怒りや立腹の度合いが激しく長引き、怒りの対象人物と絶縁したり話もしないような状態が続くという意味のようです。

夫婦喧嘩で妻が夫に怒り心頭となり、日常生活で当面の間、夫とは口を利かないというようなお怒りの場合に使われるのが、「حرد」であるとのことです。

非限定対格のタンウィーンの位置(3)

ということで、この対格のタンウィーン問題は、アラブ世界では「子音の上にタンウィーンが付される方式」と「アリフの上にタンウィーンが付される方式」が混在しているという状況にあり、また、欧米式のアラビア語教授法は前者の方式を採っているというのが結論になります。

アラビア語を欧米式のアラビア語教授法で学んできたため、私は個人的にアリフの上にタンウィーンが付される方式」には違和感があるので、子音の上にタンウィーンが付される方式」に従っています。

また、もう一つの考察としては、Windows との関連というのも若干あるのではないかと思っています。

Windows でユニコードを利用した多言語混在環境が整ったのは、 2000年に発売されたWindows2000 からで、その後、Wimdows XP (2001年)、Windows Vista (2007年)、Windows 7 (2009年)と続きましたが、Windows 7 で初めて、それまでのアラビア語表記の不具合がかなり解決されました。

Windows 7 までは、例えば 「ل 」という文字に適切な母音符号が振れない、すなわち、「ل」の文字の上にカスラやタンウィーンを振れない状況が続き、母音符号を振る必要がある際には、符号の位置をずらす等して表記せざるを得ませんでした。


従って、今回取り上げた「子音の上にタンウィーンを付す」ということが出来ず、「アリフの上にタンウィーンを付さざるを得ない」状況がありました。このために、アラブ世界で、「アリフの上にタンウィーンを付す」ということが広まった可能性はあるのではないかと思います。

マイクロソフトの仕様により、アラビア語を使う際にしっくり来ない例は色々とあります。

アラビア語の文章において「٢٠٢٢」と入力したいのに、デフォルトでは「2022」と表記されてしまう仕様が続いていたことや、特定の文字列を入力した際におかしな表記が現れる例など、Windows のアラビア語表記に関しては、未だ改善点が残っているようです。


少し脱線してしまったかもしれませんが、対格タンウィーンの位置問題は、この辺でお開きにしたいと思います。

非限定対格のタンウィーンの位置(2)

タンウィーンの位置について私は、「子音の上にタンウィーンが付される方式」が正しいと思っていました。

このアラビア語ー日本語電子辞書では、その方式に従ってタンウィーンを振っています。

では、何故「子音の上にタンウィーンが付される方式」が正しいと思ってきたのか?

多くのアラビア語文法書や参考書を日本に残してきたので手元にあまりないのですが、バーレーンへ持参してきているものからまとめると次の通りです。

「アラビア語入門」池田修著(岩波書店):タンウィーンの位置についての言及はないが、同文法書内では「子音の上にタンウィーンが付される方式」となっている。

「基礎アラビヤ語」内記良一著(大学書林):タンウィーンの位置はアリフの直前の文字の上に付されるとの説明があり、同文法書内では「子音の上にタンウィーンが付される方式」となっている。

「大学のアラビア語詳解文法」八木久美子、青山弘之、イハーブ・アハマド・エベード著(東京外国語大学出版会):非限定対格の語尾は「ــًـا」となるとの記述があり、子音の上にタンウィーンが付される方式」となっている。

「Modern Literary Arabic」 David Cowan著(Cambridge University Press ):明確な説明はないが、「كلب」の対格は「كلبًا」と表記しており、子音の上にタンウィーンが付される方式」となっている。

「Modern Written Arabic」 Elsaid Badawi, M.G. Carter, Adrian Gully 著(Routledge):非限定対格の語尾は「ــًـا」となるとの記述があり、子音の上にタンウィーンが付される方式」となっている。

このいう書物で学んできたので、子音の上にタンウィーンが付される方式」が正しいと思ってきたようです。

アラブ圏以外のアラビア語教授法は欧米式教授法を採っているので、子音の上にタンウィーンが付される方式」が定説となり、日本でも同様の教授法を採用しています。

アラビア語学科を有する国立大学の東京外国語大学や大阪大学外国語学部(旧大阪外国語大学)のアラビア語関連サイトでも、タンウィーンの扱いは同じようです。

http://www.tufs.ac.jp/common/fs/asw/ara/arabic/zukai_na7w/i3rab.htm

http://www.tufs.ac.jp/common/fs/asw/ara/arabic/imlaa/tanwin.htm

http://el.minoh.osaka-u.ac.jp/wl/ar/lesson01/pdf/L1_3.pdf

また、この件で日本の友人に確認したところ、米国国務省が作成している国務省のアラビスト向けアラビア語の教科書では、タンウィーンについては同様の記述となっていると、そのページをコピーで送ってくれました。(続く)