訳が気になるアラビア語の単語

昔から辞書を引いても何となく意味がよく分からないアラビア語の単語というのは、山ほどあります。
その理由としては、
(1)辞書におけるアラビア語の英訳が現在一般的に使われ理解されている意味への更新が遅れている
(2)政治、経済、社会、宗教等の分野で各専門家が、(アラビア語の)単語・用語の解釈・定義等を行っていますが(中東では専門分野別の語彙単語集が多数発刊されている)、それらが、いわゆる言語・文法学的な一般の辞書に反映されていない
ということも挙げられるように思います。

アラビア語学習に欠かせないグローバルスタンダードと言われるHans Wehr の Arabic-English Dictionary の最新版(第4版)は1994年に発刊されたので、20年近く改訂されてないことになります。この話題は何度となく取り上げていて、誤解のないように言えば、勿論このHans Wehr の辞書は大変有益な辞書ですが、長期間改訂のない古い辞書が示す時代遅れの訳語は、我々に誤解を与え続けるのではないかと懸念します。

上記の(1)については、気付く限りにおいて本「アラビア語-日本語電子辞書」で更新していますが、(2)への対応はさほど進んでおらず、これから(時間的余裕のある退職後?)の課題ということになるかと思います。

以前から、例えば、
وطني」や「قومي」や「أهلي」などという語について、Hans Wehr 等の辞書に記される訳語をそのまま本「アラビア語-日本語電子辞書」へ登録していたため、意味が通らない訳が中にはあり、(2)の対応で、これらの語とその関連語の訳語の訂正を今行っています。

さて、説明を端折って結論を言えば、「وطني」は、「国の、国家の、国立の」等の意味ですので、日本の天皇誕生日のような各国の国祭日、国旗、国歌、国立銀行、国立大学、国立博物館、国立劇場、国営放送、国宝などの形容詞にはこの「وطني」が使われます。

これに対して、قومي」は、アラブ民族の統一理念を意味する形容詞ですが、一般的な辞書で示される訳語から「وطني」と混同される傾向にあります。قومي」は特定の国に使われる形容詞ではありませんので、上記の国祭日、国旗、国歌、国立銀行等の形容詞としては不適切です。例えばエジプトのナーセル元大統領が汎アラブ主義を主張しエジプトとシリアによるアラブ連合共和国を建国した頃には、قومي」が上記形容詞として使われることはあったのだと思います。「قومية」(アラブ民族主義)には、ナーセル主義、バース主義、アラブ民族主義の3つがあると言われています。

وطني」や「قومي」については、Googleで「ワタニーヤ カウミーヤ」と入力すれば、意味の違いを解説している研究者やシンクタンクのウェブサイトが出てきます。上記(2)の趣旨は、この種のサイトで示される適切かつ当を得た訳語を辞書に反映させていきたいということです。

ところで、وطني」や「قومي」関連の訳語訂正中に、本辞書に既登録の「横浜国立大学」の訳語が「جامعة يوكوهاما القومية」となっていたので「الوطنية」に改めました。「حكومية」でもいいと思います。この種の誤った使い方がよく見られるようです。

長くなったので、「أهلي」の説明は次回に譲ります。