辞書作成の際の悩みの一例

 この話題は、もう何年も前から一度ブログで取り上げてもいいと思っていましたが、本日、また、この悩ましい問題に遭遇し、よい機会だと思いますので、触れておきます。

 それは、動詞Ⅰ形の中で、例えば、كتب のようによく使われる動詞完了形の第二根素の母音は現在では一つに決まっていますが(كتب の場合にはa音)、あまり使われない動詞については、第二根素の動詞が、aもあればiもあればuもある場合があり、それらをいちいち辞書に登録する意味がどれだけあるのかということです。使用頻度が極めて低い動詞に限って、動詞完了形の発音が3通りもあると辞書に記されているのはどういうことでしょうか?

 今日は偶々نحل (「痩せる」という意味)という動詞があったので、それを登録しようとしたら、この動詞は第二根素としてa音もi音もu音もあると「HANS WEHR」の辞書に載っていました。
  「AL-Mughni Al-Farid」の辞書にも、同様にa,i,uの3通りがあると書かれていますが、「HANS WEHR」 とはそれぞれの動名詞が異なっています。

 こういう場合、アラブ人にa,i,uのうちどれがよく使われるのかと質問しても、根拠のない回答や、「言語学者に確認するしかない」との返事くらいしか返ってきません。

 中東で本屋へ行くと、アラビア語-英語の(或いはその逆の)政治、外交、経済、軍事、コンピューター、薬学、医学、農業等の分野別の語彙集は多く販売されています。しかし、例えば上記のような動詞の根素の母音を、各国・地域での使用頻度から統一し、アラビア語学習者が混乱しないで済むよう、
言語学的・文法学的にまとめられた辞書が欲しいところですが、そういう類いのものは見当たらないようです。

 نحل の例では、
動詞完了形の発音が3通りあり、それを未完了形にした際の特徴母音は、完了形aに対して未完了形はu,a、完了形uに対して未完了形u(これについてはアラビア語の文法の規則通り)、完了形iに対して未完了形はiと記されていますが、نحل 一語にこのような多くの変化があるのは、戸惑いという以外の何物でもありません。そして、あまり使われない動詞にこのようなケースが多数あり、いつも困っています。

  نحل  をどういう風に本辞書に登録すべきか、まだ結論が出ていません。 今回は、2冊の辞書で動名詞が異なっているというのも頭の痛いところです。また、نحل には第二根素をa音として「贈り物をする」とか「発言等を不当に(発言者に)責任転嫁する」という全く別の意味もあります。
 因みに、「Al-Mawrid」の辞書は、「贈り物をする」「責任転嫁する」の意味ではa音とし、「痩せる」の意味ではi音とu音と記載しています。若干整理されている感があり、この辺りでまとめるのが無難なところでしょうか?