同時通訳=格闘技

3日のNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組(海外では8日放映)で、同時通訳者の長井鞠子さんについて取り上げられていました。
http://www.nhk.or.jp/professional/2014/0303/index.html

通訳で的確な訳語を見いだすことの難しさ、漢語よりは和語の方が心にすとんと入り込む話等、アラビア語ー日本語辞書の編集にも参考になるような話が多く、ためになった番組でした。

何よりも感銘したのは、とにかく仕事に真剣に取り組むべきであり、また、同時通訳には格闘技の如く瞬間的判断が必要になるということ。
この番組での長井さんの決意や思いからすれば、この辞書の編集作業などまだまだ甘っちょろいものだと痛感しました。また、より良い辞書作成への大きな励みにもなりました。

この番組から学ぶものは多かったのですが、改めて考えてみますと、例えば、榊原英資著「日本人はなぜ国際人になれないのか」(東洋経済新報社)では次のような点が指摘されていました。
・日本は翻訳文化の国。
・翻訳は諸外国の異文化を受け入れ、日本全体に広める点で大きな役割を果たしてきた。
・翻訳文化があるが故に、日本人は外国人と積極的に交わろうとせずに済むし、外国語の習得の必要性にも乏しくなる。
・翻訳を通じてではなく、日本人一人一人が外国語を外国語として習得しないと、日本全体の国際化は進まない。英語学習において、日本はアジア諸国に大きく後れをとっている。

素晴らしい技能を持つ翻訳者や通訳者のおかげで、我々日本人が外国語を日本語で理解するのが容易な場面は多いですが、だからといって、個々人が英語や諸外国語に精通するための努力を怠るべきではないという著者の主張は、その通りかと思います。

翻訳文化により日本国内で外国語(英語)が使われることがないので、日本に住む外国人が、例えば、地震等の緊急事態が起きた際に、日本語が分からないと何が起きているかの現状把握すら出来ず困ったと言う話を聞いたことがあります。
地理的には海洋に囲まれた島国で、歴史的には鎖国していた訳ですから、日本は世界的に見て、まだまだ閉鎖的で異質なのかもしれません。

他方で、日本人の勤勉性や技術力、街の清潔さ、時間厳守やおもてなしの精神、食文化等世界から評価される点も多く、BBCが毎年行う国の好感度調査によれば日本のランキングは高いわけですから、語学の点だけであまり卑屈になる必要もないのではと思います。

個人的には、英語やアラビア語を通じて、諸外国とその国民のことをもっとよく知り、また、諸外国の人にも日本に対する知識を深めてもらえるようしっかり努めていきたいと、そしてアラビア語に関しては、この辞書がアラビア語と日本語との架け橋となればと願っています。