2014年3月アーカイブ

アラビア語学習としてのアラブ文学作品

前回のブログで、近代アラブ文学の代表的な作家に、タハ・フセイン、マフムード・アルアッカード、タウフィーク・アルハキームがいると書きましたが、それぞれの作家の文体は順に、甘い、苦い、甘苦くちょうど良いなどと言われるようです。
また、現代アラブ文学では、ノーベル文学賞を受賞したナギーブ・マフフーズなども思い起こします。

さて、これら文学作家の作品を、初級・中級のアラビア語学習の教材として読むことについては、個人的には疑問に思っています。

タハ・フセインの「الأيام」にしても、最初の2~3ページの中に、一般的には使われないような単語がいくつも出てきます。
すなわち、それらは、一般のアラブ人に尋ねると首をかしげられる難しい単語で、そのような単語を覚えても実用的とは思えません。

アラブのTV、新聞、雑誌などは、今ではインターネットのおかげで、どこにいても簡単に視聴・閲覧できるようになりましたが、これらの報道言語をまずはしっかりと学ぶのが、アラビア語学習の基本ではないかと思います。

このアラビア語-日本語電子辞書は、報道言語を中心とする現代アラビア語向け辞書という位置付けで編集しており、現在編集中の中級辞書の最終バージョンにて、報道言語のほとんどをカバーしてしまいたいと思っています。

なお、現時点での中級辞書の完成率は8割程度(すなわちこの辞書を使って、報道言語の8割は理解できる)というところではないかと思います。


الأيام لطه حسين

前回、翻訳文化について触れましたが、翻訳は、手早く何かを読みたい、知りたいという場合には、助かることがあります。

例えば、タハ・フセインの代表作である「الأيام」を読みたいと思っても、アラビア語の原書で一冊全部を素早く読むのは、容易なことではありません。

かなり昔になりますが、「الأيام」を原書で読む前に、まずは、その日本語訳の書籍である「わがエジプト-コーランとの日々、田村秀治著、サイマル出版会、1976年発刊」(今ではもう手に入らないかもしれません)を読んだことがあります。

الأيام」の最初の一文の翻訳は、
「その日がいつだったのか、何年の何月だったのか、また、時間は何時頃だったのか、彼は何もはっきりとは覚えていない。」
ですが、原文は、
لا يذكر لهذا اليوم اسما , ولا يستطيع أن يضعه حيث وضعه الله من الشهر والسنة بل لا يستطيع أن يذكر من هذا اليوم وقتا بعينه, وإنما يقرب ذلك تقريبا
となっています。

原文では、「الله」が出てくるのですが、日本語の翻訳からはこの文章中に「神」が現れるなどとは思いもよらないので、原文に触れると色々な発見があります。

この原文を直訳すると、「彼はこの日のことを覚えておらず、月日をお定めになる神とは違い、彼にはその月日を特定することはできない。また、この日の何時のことであったのかについてもはっきりとした記憶はなく、大体この位の時間であったとしか言えないのだ」というところでしょうか。

「الأيام」は長編で、あまり細部にこだわって訳していると大部になるので、翻訳書の翻訳はうまくまとめていると思います。

タハ・フセインは、マフムード・アルアッカードやタウフィーク・アルハキームと共に、近代アラブ文学の代表的な3人の一人に当たると言われますが、新聞などの文章に比べると難解な文学作品を読む前の翻訳書の存在は有り難いです。

同時通訳=格闘技

3日のNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組(海外では8日放映)で、同時通訳者の長井鞠子さんについて取り上げられていました。
http://www.nhk.or.jp/professional/2014/0303/index.html

通訳で的確な訳語を見いだすことの難しさ、漢語よりは和語の方が心にすとんと入り込む話等、アラビア語ー日本語辞書の編集にも参考になるような話が多く、ためになった番組でした。

何よりも感銘したのは、とにかく仕事に真剣に取り組むべきであり、また、同時通訳には格闘技の如く瞬間的判断が必要になるということ。
この番組での長井さんの決意や思いからすれば、この辞書の編集作業などまだまだ甘っちょろいものだと痛感しました。また、より良い辞書作成への大きな励みにもなりました。

この番組から学ぶものは多かったのですが、改めて考えてみますと、例えば、榊原英資著「日本人はなぜ国際人になれないのか」(東洋経済新報社)では次のような点が指摘されていました。
・日本は翻訳文化の国。
・翻訳は諸外国の異文化を受け入れ、日本全体に広める点で大きな役割を果たしてきた。
・翻訳文化があるが故に、日本人は外国人と積極的に交わろうとせずに済むし、外国語の習得の必要性にも乏しくなる。
・翻訳を通じてではなく、日本人一人一人が外国語を外国語として習得しないと、日本全体の国際化は進まない。英語学習において、日本はアジア諸国に大きく後れをとっている。

素晴らしい技能を持つ翻訳者や通訳者のおかげで、我々日本人が外国語を日本語で理解するのが容易な場面は多いですが、だからといって、個々人が英語や諸外国語に精通するための努力を怠るべきではないという著者の主張は、その通りかと思います。

翻訳文化により日本国内で外国語(英語)が使われることがないので、日本に住む外国人が、例えば、地震等の緊急事態が起きた際に、日本語が分からないと何が起きているかの現状把握すら出来ず困ったと言う話を聞いたことがあります。
地理的には海洋に囲まれた島国で、歴史的には鎖国していた訳ですから、日本は世界的に見て、まだまだ閉鎖的で異質なのかもしれません。

他方で、日本人の勤勉性や技術力、街の清潔さ、時間厳守やおもてなしの精神、食文化等世界から評価される点も多く、BBCが毎年行う国の好感度調査によれば日本のランキングは高いわけですから、語学の点だけであまり卑屈になる必要もないのではと思います。

個人的には、英語やアラビア語を通じて、諸外国とその国民のことをもっとよく知り、また、諸外国の人にも日本に対する知識を深めてもらえるようしっかり努めていきたいと、そしてアラビア語に関しては、この辞書がアラビア語と日本語との架け橋となればと願っています。

中級辞書Ver.4.50のアップロード

- アラビア語-日本語電子辞書データ 更新報告 -

辞書名:中級辞書Ver.4.50

収録語彙数:45,000語

辞書の説明:(Ver.4.48から)新規に200語の追加、約80語の既存入力語の訂正の実施。

特記事項:本バージョンアップに伴い、「日本語-アラビア語辞書データ」も更新しました。