2013年10月アーカイブ

زهر

「HANS WEHR」の辞書の「زهر」の動詞(Ⅰ形)の訳語には、肝心の「花開く、開花する」という訳が抜けているようです。

英国系の学校に通う子供の授業にアラビア語があり、「アラビア語の先生から「زهر」には「تفتح」の意味があると教わった」と子供が言ってましたので、開花するという意味で「زهر」は一般的に使われるのだと思います。

تشابك

以前「اشتباك」に触れましたが、同じ語根でⅥ形の「تشابك」の基本的な意味は「もつれる」、「絡まる」で、「糸がもつれる」とか「髪の毛が絡まる」というような場合に使われます。

先日、「تشابك المصالح」という表現を見つけたのですが、それは直訳すると「利害関係の絡み合い」になります。

アラブとイスラエルは敵対関係にあるにもかかわらず、シリア問題に関してはアサド政権打倒を目指して一部のアラブ諸国とイスラエルとの間に一定の「共通の利益」があることになりますが、その「共通の利益」が「تشابك المصالح」に相当するようです。

ですので、この表現は「مصالح مشتركة」とも言い換えられ、(一時的な損得勘定により長く続くことはなく、そのためあまりいい意味合いのない)共通の関心事ということのようです。

حياة

「HANS WEHR」の辞書の「حياة」の説明で、「علم الحياة」を「生物学」と訳してありますが、正しいようには思いません。

この訳に基づき、「حياة」に「生物」の意味があると書いてある辞書もありますが、「حياة」に「生物」の意味はありません。

生物学は、「علم الأحياء」か「علم البيولجيا」のどちらかではないかと思います。

また、「علم الحياة」は、「生命科学」とか「ライフサイエンス」を意味するのだと思います。
英語の「life science」は複数形で使われることが多いので、それを真似てか、「生命科学」は、「علوم الحياة」と記されることもよく見られます。


سيئ

「悪い」とか「有害な」を意味する形容詞の「سيئ」には、「سيء」のように語尾のハムザが独立して書かれる表記もありますが、どちらかと言えば、前者が一般的な表記になっているようです。

さて、この「سيئ」の対格は「سيئا」となりますが、「سيء」の対格を「سييئا」とする辞書があります。

Googleアラビア語で検索したところ、「سيئا」はヒットしますが、「سييئا」はヒットしませんでした。

今、アラブ諸国は犠牲祭休暇中なので、アラビア語を母国語とする人から確認は取れていませんが、「سييئا」という対格は、そもそも誤りか、現在では使われない表記のいずれかではないかと推測され、結論としては、「سيئ」と「سيء」の対格は「سيئا」のみではないかと思います。

酔う

「酒に酔う」という動詞に「سكر」や「ثمل」がありますが、いずれの語にも、「酔いしれる」「うっとりする」「魅せられる」の意味があるようです。

日本語でも「名演奏に酔う」とか「勝利に酔う」と言いますが、アラビア語でも同じように使われるようです。

明るさの指標

偶々、「光度」という単語に出くわしたので、光関連の指標をまとめ直しました。

新語もあるようで、色々な分野における新語の登場には気をつけておかないといけないと思いました。

-光関連指標(単位)-
光度:「قوة ضوئية」或いは「شدة ضوئية」(単位:カンデラ)
照度:「شدة الاستضاءة」或いは単に「استضاءة」(単位:ルクス)
光束:「تدفق ضوئي」(単位:ルーメン)
輝度:「استضواء」或いは「سطوع」(単位:カンデラ毎平方メートル(cd/m2))

中級辞書Ver.4.42のアップロード

- アラビア語-日本語電子辞書データ更新報告 -
辞書名:中級辞書Ver.4.42
辞書の説明:(Ver.4.40から)新規に200語の追加、約60語の既存入力語の訂正の実施。
特記事項:特になし。

فرغ (Ⅰ形)完了形第二根素

この話題は一度触れたことがありますが、辞書作成上での実に悩ましい点です。



さて、「فرغ」(Ⅰ形)については、多くの辞書を調べた結果、
・完了形第二根素をa音とi音の両方とするもの
・完了形第二根素をa音のみとするもの
に大別されます。
特にアラビア語を母国語とする学生向けのアラビア語-英語小辞典などでは、第二根素はa音のみの記載となっていますので、それで定着しているのだと見られます。

こうなると、「فرغ」(Ⅰ形)は、第二根素a音だけでまとめてしまって、i音とする説もあると注釈を付すのが実用的と考えられます。

現在中級辞書に登録中の、第二根素に2種類の母音があることを踏まえた「فرغ」(Ⅰ形)2語は、1語のみの登録に切り替えてしまいます。

アラビア語の時制(2)

アラビア語の文法書の中に、時制の説明の一つとして、「كان」の後に動詞未完了形に未来を表す接頭辞(助動詞)「س」を付けた形、例えば、「كان سيقرأ الكتاب」のような文章があると説明しているものがあります。そのような説明は例えば、「Elementary Modern Standard Arabic」(Cambridge University Press)(いわゆるオレンジ本)でなされています。

كان سيقرأ الكتاب」の意味は、「彼はその本を読むことになっていた」ということですが、アラビア語を母国語とする人によると、「كان」の後に動詞未完了形に未来を表す接頭辞(助動詞)「س」を付けた形はあまり多用される表現ではなく、「することになっていた(が出来なかった)」という場合には、先の文章であれば「كان من المفروض أن يقرأ الكتاب」と書くのが一般的だとのことです。

英語に訳すと、「I should have read the book」か「I was going to read the book」となり、前者は実現しなかった予定に対する後悔や不満を示しますが、「كان سيقرأ الكتاب」には読まなかったことに対する後悔や不満があるような意味はなく、「その本を読むことになっていた」と単に実現しなかった予定を意味することになります。

また、「كان من المفروض أن يقرأ الكتاب」の文章も、実現しなかった予定に対する後悔や不満はなく、「読む予定だった(が読まなかった)」という意味になります。

結論的には、「كان سيفعل」は多用される表現ではないようですが、「実現しなかった予定」を意味すると覚えておけばいいのではないかと思います。

アラビア語の時制(1)

アラビア語においてはあまり注意を払う必要のない文法事項かもしれませんが、気になる点をいくつかまとめてみたいと思います。

で、第一回目は、未来を示す「س」と「سوف」の違いについて。

未完了形の動詞と共に使われて、未来を表す接頭辞(助動詞)であることはご存じの通りですが、ほとんどの文法書に、両者には意味的に違いはないように書かれています(前者は動詞に触接ひっつく、後者は独立して記されるとの表記の違いあり)。

この2つの接頭辞について、「Elementary Modern Standard Arabic」(Cambridge University Press)(いわゆるオレンジ本)では、「سوف」は「س」より形式張って堅苦しい意味合いがあると書かれています。

そのほか、両者にどのような違いがあるのか、アラビア語を母国語とする人に聞いてみたところ、どちらかと言えば「سوف」は「س」よりも遠い未来を表す場合に使われる、すなわち、明日や明後日、或いは1週間以内程度の未来に対しては「س」を使うのに対し、それらよりももっと先の未来に対しては「سوف」を使う傾向があるとのことです。

なお、「سوف」の後には否定詞の「لا」を持ってきて、
سوف لا يذهب إلى السوق」(彼は当面市場へは行かない)
のように、未来の否定を表せますが、「س」は動詞とひっつくために、否定詞「لا」を使って未来の否定を表せず、そのため「لن」が使われます。
ただ、「سوف لا」と「لن」には若干違いがあり、後者の方がより強い否定を意味します。

اشتباك

この語は、その複数形の「اشتباكات」でもよく見かける単語で、「(武力)衝突」、「小競り合い」、「乱闘」などの意味があることはご存じのことと思います。

他方で、「HANS WEHR」等の辞書では、「巻き込まれること」とか「関わること」などの意味もあるように記されています。更には、「錯綜」、「複雑化」などの意味もあるように記されている辞書もあります。

さて、ある政治雑誌にアラブの春関連の論文集があり、そのタイトルが「الاشتباك الخليجي」となっていました。また、その英訳が、「Gulf engagement」となっていて、「アラブの春への湾岸諸国の関与」のように意味を取ってしまいがちですが、どうもそうではないようです。

アラビア語を母国語とする人による結論は、「اشتباك」は、「(武力)衝突」、「小競り合い」、「乱闘」という意味のみで、「関与」や「錯綜」などの意味はないとのことでした。

その論文集は、湾岸諸国によるアラブの春への対応の混乱振りやサウジとカタールによるアラブの春への対応の違いを扱っているので、「الاشتباك الخليجي」は、(アラブの春に対する)湾岸諸国の「不和」とか「(意見の)食い違い」という意味で、結局は「اشتباك」の基本的な意味と同じであるということかと思います。

なお、余談ですが、英語の「engagement」には「戦闘」という意味があり、「Gulf engagement」とは、「(アラブの春を巡って)湾岸諸国でもめている」ということを意味しているのであれば、名訳かもしれません。