アラビア語の文法書の中に、時制の説明の一つとして、「كان」の後に動詞未完了形に未来を表す接頭辞(助動詞)「س」を付けた形、例えば、「كان سيقرأ الكتاب」のような文章があると説明しているものがあります。そのような説明は例えば、「Elementary Modern Standard Arabic」(Cambridge University Press)(いわゆるオレンジ本)でなされています。
「كان سيقرأ الكتاب」の意味は、「彼はその本を読むことになっていた」ということですが、アラビア語を母国語とする人によると、「كان」の後に動詞未完了形に未来を表す接頭辞(助動詞)「س」を付けた形はあまり多用される表現ではなく、「することになっていた(が出来なかった)」という場合には、先の文章であれば「كان من المفروض أن يقرأ الكتاب」と書くのが一般的だとのことです。
英語に訳すと、「I should have read the book」か「I was going to read the book」となり、前者は実現しなかった予定に対する後悔や不満を示しますが、「كان سيقرأ الكتاب」には読まなかったことに対する後悔や不満があるような意味はなく、「その本を読むことになっていた」と単に実現しなかった予定を意味することになります。
また、「كان من المفروض أن يقرأ الكتاب」の文章も、実現しなかった予定に対する後悔や不満はなく、「読む予定だった(が読まなかった)」という意味になります。
なお、「سوف」の後には否定詞の「لا」を持ってきて、 「سوف لا يذهب إلى السوق」(彼は当面市場へは行かない) のように、未来の否定を表せますが、「س」は動詞とひっつくために、否定詞「لا」を使って未来の否定を表せず、そのため「لن」が使われます。 ただ、「سوف لا」と「لن」には若干違いがあり、後者の方がより強い否定を意味します。